セッテピエゲの本質

2017年10月15日日曜日

t f B! P L
ちょっと大仰なタイトルですが、セッテピエゲを作るにあたり色々調べている中で
「ちょっとそれは違うでしょ?」というものが結構ありまして。

これについて思うところがあったので、ちょっと書いてみたいと思います。
ちなみに割と憤慨していることなので、端々で言葉が荒くなっていますが、ご容赦ください。


こんな感じで進めていこうと思います。

1.ネクタイの歴史

ネクタイの原型は、17世紀頃のフランスで胸元を飾る装飾品として生まれました。
当時は今のようなネクタイの形ではなく、スカーフをアレンジして首に巻いていました。
また、ネクタイという呼び名ではなく、「クラバット」と呼ばれていました。

1660年頃、このクラバットががイギリスに渡ります。

そして長い時間をかけて、紳士の装いがシンプルかつ機能的になっていく中、
クラバットの装いも変わっていきました。
また、紳士の装いになくてはならないものになっていきます。

そうして1860年頃、ようやく今の形のような「ネクタイ」が生まれました。

細かい内容については、以下のブログで綺麗にまとめられています。
当時の資料などもあってなかなか興味深かったです。

■DIAMOND HAKE
知らないと恥ずかしい ネクタイの期限と歴史

■TUNDRA
ネクタイの歴史と進化

いずれもネクタイ屋さんのブログです。


2.セッテピエゲの定義

このブログでは何度か書いていますが、「セッテピエゲ」とは「sette pieghe」と書きます。
イタリア語で「7つ折り」を意味する言葉です。

自分でも色々調べましたが、実は明確な定義はないみたいです。
下記のブログでは、現地の工房の方に実際に確認したようですが、結局、明確な答えは得られなかったようです。

■RING JACKET
COLUMN 『服の向こう側』 vol.9 / セッテピエゲの謎

結局、折る回数が多いものを総称してセッテピエゲと呼んでるようです。

ちなみに私が作るものはこんな感じです。
※番号は折る順番で振っています。




左側を7回折っています。右側もカウントするのであれば9回(nove pieghe:ノーヴェピエゲ)でしょうか。
折り目だけの数であれば10ですが、⑨のところは2枚一緒に折っているので回数で言うと9になります。

3.これはちょっと違うよね?

さて本題です。
昨年販売された紳士服の青山のセッテピエゲを謡ったネクタイについて書きます。


3本のネクタイを比較します。左から、
[A]一般的な作りのネクタイ(3つ折り)
[B]紳士服の青山のセッテピエゲ
[C]私が作るセッテピエゲ
です。

まずは青山商事が出しているプレスリリースを見てみましょう。

■プレスリリース
http://www.y-aoyama.jp/news/2016/pdf/0927_settepiege.pdf

下の画像は、上記プレスリリース内で私が気になった箇所です。






では、見ていきます。


パッと見た限り、折っている数は通常のものより多いようですね。
ただ、このボタンの意味はわかりませんね。完全に糸で縫いつけられいるだけです。
なんとなく糸を留めるためなんだろうなと思いますが、ボタンをつける必要性を感じません。


縫製を解きます。


はい、芯地が出てきました。「芯地を使わない」とは?
厚さは1mmほどです。一般的な厚さだと思います。


さらに広げてみます。


折り目は7つありますね。これはちょっと意外でした。ちゃんと折ってありましたね。
⑥が2つあるのは、そこが2枚一緒に折られていたからです。

ちなみに[A]の3つ折りはこんな感じです。


3か所折ってありますね。イタリア語では、「tre pieghe(トレピエゲ)」と言います。
3か所折って「3つ折り」。ならば「7つ折りなら折り目は7つやん?」と明白だと思うんですけど、なんでメーカーによって定義がマチマチなんでしょうね。


さらに生地の面積を比較してみましょう。
上から[A][B][C]の順に重ねました。


…倍?
どう見ても倍ではありませんね。
大剣の先端部が3つ折りよりほんの少し大きいくらいです。首に巻く部分に関しては3つ折りのものとなんら変わりません。

私が作ってるものと比較すると、使っている生地の量が全然違うということがわかりますね。


では、ふんわりなノット(結び目)はどうでしょうか。
(通常の芯地を使ってる時点でふんわりも何もないのですが。。。)
分解してるので締めようがないですが、下の写真を見ていただければわかるかと思います。


人によって多少は異なると思いますが、私の場合、大剣の先から40cmより上のところでノットを作ります。
これを見ると、ボリュームの出る部分がノットとなんら関係ないということがわかりますね。
ノットの具合はやはり普通のネクタイと変わりません。ふんわりも何もないですね。
(因みに1回は着用してお仕事に赴いています。そのときノットも確認済みです。)


一応フォローを入れておきます。

芯地を使うことや上の写真の状態が悪いというわけではありません。
芯地を使う場合、ネクタイに張りが出ますし、耐久性もグンとあがります。芯地の厚みが薄ければ軽い締め心地になりますし、厚ければしっかりとしたノットを作ることができます。
ちゃんと役割があるんです。

芯地をただなくすだけだと、厚みも失われるのでノットが小さくなってしまいます。
そうならないようにノットとなる部分も生地を折り込み、厚みを出すわけです。

私の場合、下の写真の①のあたりが該当します。


折り込んであるので、ノットを作ったときにちゃんとボリュームがでるようになっています。


4.セッテピエゲの本質

「本質」というほどのものでもないと思いますが、セッテピエゲはあくまでもネクタイを作るための『手段』でしかありません。

『目的があって、その目的を達成するために手段を講じる』

これこそがあるべき姿だと思います。
今回取り上げたネクタイでは、「セッテピエゲ」という言葉だけが独り歩きしているように思えてしかたありません。

どういう装いをしたいのか。

これに尽きるのではないでしょうか。
折る回数はさして重要ではありません。自分の胸元をどう飾りたいか。
カチッと整えたいのか、ふんわり柔らかくしたいのか、誰と会うのか、どんな場面なのか、そういったことを考えたうえで、最適な1本を選択する。
これが出来るようになれるといいですよね。


5.まとめ

プレスリリースで謳っていることと実物の乖離、これがすごい腹立たしい。
消費者を舐めてるとしか思えません。

ただただこれが言いたかっただけです。

今回は実物を入手していたので青山さんのネクタイを悪い例として取り上げましたが、検索すれば似たような事例は結構でてきます。

別に商品自体が悪いわけではないんですよ。
実際に作っている方(針と糸で作業する方々)はそんな気持ちとかないでしょうし、出来上がった品もしっかりした物なんですよ。

売る人のエゴなんですかね、事実と異なる宣伝文句とかほんと腹立たしいですね。
ほんと激おこ案件です。

はー、すっきり

Archives

Sponsored link

QooQ